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鉄ブログらしく追悼・原節子さん(その2=成瀬と小津と) [映画・音楽]

9月に亡くなっていたことが伝えられた原節子さん。

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Cedar流レクイエム記事の2回目は、一連の小津作品で『神話性を持つスター』だった原さんが、生活感ある役柄で新境地を開いた2本=原さんの代表作といえます。
2作ともロードムーヴィー的な部分もあるので、要所要所で鉄シーンも効果的に登場します。

1951年公開の『めし』は、林芙美子の未完絶筆の映画化、監督は成瀬巳喜男です。
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小津と同じ松竹で監督となったものの、『小津は2人いらない』と言われて東宝に移籍した成瀬ですが、この作品でスランプを脱し再評価を確立しました。

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原さんも、生活感のなかに生々しい艶っぽさや肉感さえも醸し出し、小津作品とは異なる境地を開拓しています・・・このあたり、成瀬+原のコンビネーションが成功してます~さすが女優を撮る名人と言われた成瀬巳喜男ですね。

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成瀬作品の特徴のひとつは、ロケ風景と凝りに凝ったセットを組み合わせることですが(シャイな性格の成瀬は、ロケで役者に芝居させるのが嫌いだったとか)、この作品でも映画の冒頭の阪堺電車の走る南大阪の長屋など、素晴らしい効果をあげています。
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~下の画像の上段はロケ撮影、下段は砧東宝撮影所のオープンセットです。めし01R.jpg(6)
冒頭、原節子さんのナレーションで「大阪市の南のはずれ、地図の上では市内ということになっているが、まるで郊外のような寂しい小さな電車の停留所」と表現される場所(阪堺線、天神ノ森)の近くの長屋にはじまり
大阪・東京とさすらっていく夫婦の日常、句読点のように鉄風景が入ってきます。
家出してきて転がりこんでいる夫の従姉妹が、天神の森電停から阪堺電車で盛り場に出るシーンでは、Yゲル姿のモ231が出てきたり~
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(8・9)

難波あたりを歩くシーンでは大阪市電1600?もチラッと登場します。めし鉄002ー1.jpg
(10)

夫との生活に疲れたヒロインが、従姉妹をつれて東京の実家に帰るシーン。めし鉄01.jpg(11)

大阪駅のホームにRTO(Rail Trooper Office)の表記が見えるのは時代です。めし鉄02.jpg(12)
東京近くを走る列車はなんとEL重連
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(13・14)でも後続の客車を見ると2等も無く、急行ではないようで・・・しんがりはオハニ36ですね。

実家のある南武線矢向駅から家路をたどる~ここも駅はロケ、実家の街並みはセットです。めし6ー1R.jpg
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(15~17)
実家に居ながら働くつもりで職探しに行ったものの、たじろいでる時に友人に遇うシーンには、川崎市営トロリーバスの架と修理用作業台が写っています(~ずばり鉄シーンではないですが・・・)

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『めし』の鉄シーンは小津映画みたいな空舞台は殆どありませんが、喜怒哀楽の感情の起伏や、現状を変える決心など、『心の動きの映像化』になってる気がします。
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一緒に大阪から帰ってきた夫の従姉妹の家に向かうシーンでは、ロクサンそのままの小田急1800が登場。


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(20・21)ABF1900やHB車が懐かしい登戸界隈のくだりは、ゆれるヒロインの心を表現する重要なシーンになっています。
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夫が行方不明という女学校の友人が、子供と一緒に新聞売り子をしているのを偶然見てしまい、声を掛けられずに終わってしまう・・

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(23・24)これが自分の境遇を思い直すきっかけになって~

モヤモヤした気持ちのまま、実家に迎えに来た夫との暮しに戻っていく・・・めし6R.jpg
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(25・26)

曖昧な幸せ~みたいなものを受け入れていくのも仕方ないと、いう諦観を実にうまく表現している原さんです。

『めし』は小津監督の『麦秋』と同じ年の公開ですが、役柄の違いとはいえ、小津映画ではこういう表情は見せてないですね。
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(27・28)


原さんというと、小津作品が浮びますが、Cedarの個人的ベストワンは、実はコレです・・・小津映画だと時として仏像みたいに見える原さんが、生な女っぽい演技してると思います。ま、非常に贅沢な比較なんですが・・・

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(29・30)
ラストは夫と一緒に大阪に帰る汽車の窓から、出せなかった夫宛の手紙を捨てるシーン。
この結末は脚本家の創作です(原作者は急逝し、未完に終わっているので)。


1953年公開の『東京物語』は、小津監督と組んだ『紀子モノ』の最後の1本、前の2作とは違い、原さんは戦争未亡人と言う役どころです。
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(31)
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(32)広島尾道から東京にでてきた老夫婦が、実の子供たちから厄介者扱いされた挙句、戦死した息子の嫁にいちばん親切にされる・・・・
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(33) 

そんなストーリーを淡々と描きます。

この映画についてはいろいろ語られているので、以下画像は鉄シーンのみで・・・

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(34・35)冒頭の空舞台は東武堀切駅、開業医の長男が住む場所です。

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『東京物語』の東京は下町(ってか場末)が舞台。

(36)長女の美容院も、千住あたりの都電の走る道から路地に入ったごみごみした一角。m_E69DB1E4BAACE789A9E8AA9E13JPG__-f005e.jpg

・・・・つまり、東京で暮らす子供たちは必ずしも成功していない、ということを暗示してるわけです。

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(37・38)戦死した次男の嫁紀子は、仕事を休み『はとバス』で東京観光・・m_E69DB1E4BAACE789A9E8AA9E18JPG__-598dc.jpg

鉄風景もいつも小津映画でのうきうきした場面転換ではなく、静的な情景の一部として登場してくるのが初期の小津映画との違いです。

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(39)老夫婦は帰りに寄った大阪の三男のところにも立ち寄ります。
(40)彼は鉄道員、ここは宮原の一角でしょうか?m_E69DB1E4BAACE789A9E8AA9EEFBC92EFBC8DEFBC99JPG-c9f82.jpg

そして『東京物語』のラストは尾道
尾道に戻るとまもなく、旅の疲れで亡くなった母親の葬儀のあと、最後まで義父と時間を過ごし、未亡人の自分と同じく一人この世に残った義父を思いつつ、東京に帰っていく・・・m_E69DB1E4BAACE789A9E8AA9E3EFBC8D4-01f93.jpgm_E69DB1E4BAACE789A9E8AA9E3EFBC8D2-ff004.jpg
(41・42)原さんの表情も印象的な鉄シーン。

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(43)

さらさらと事件だけを描いて、感情の動きや気持の移ろい揺ぎなどは、場面内では描こうとせずに、場面と場面の間に、場面外に盛り上げたい』・・・これは『麦秋』の演出について語った小津の言葉ですが、そういう手法が完成されたのが、この映画のような気がします。

たとえば、確かに存在していた人がそこにいない、という受け止め難い思いを、尾道の無人の風景を見せることで語る・・・(野暮な解説、すみません・・)

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(44・45)

(46)原さんを乗せた東京行き列車の汽笛一声で、映画は終わります。m_E69DB1E4BAACE789A9E8AA9E3EFBC8D6-5d22d.jpg

小津映画の常として、主役が脇役の言動に翻弄されつつ物語が進展していき、最後には主役のゆるぎない人生観への共感で終わるのですが、この映画ではそれが余韻として特に強く残ります。

尾道の撮影現場には見物人が殺到、原節子さんが到着する時刻には尾道駅の入場券が3000枚売れたとか・・


とかとか・・・・

こうしてみると、やはり小津・成瀬は世界に誇る素晴らしい才能です。
2人の期待に応えた原さんの力量ももちろん素晴らしい。

幸せな映画の時代を生きた女優、原節子さん。享年95歳・・

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(47)先月27日まで、東銀座、東劇に献花台が設置され、Cedarもお別れに行ってきました~

というわけで、長いお別れになってしまいました、あいすみません。

ではまた。


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コメント 12

Cedar

★剛力ラブ様
nice!ありがとうございます

by Cedar (2015-12-07 01:22) 

のり

どちらも、強い感銘を受けた作品です。

原さん出演作品の全てを見たわけではありませんが、最高作品であることに異論はありません。

この二つの作品には、「鉄風景」がしばしば登場しますね。
特に「めし」の天神ノ森にやってくる阪堺線モ231号には、馴染み深い懐かしい走行音とブレーキ音を聞くことができます。

…、あっ、本題からそれてしまいました。

上原謙さんとの当時の二代スターが、倦怠期の夫婦という役どころでの挑戦は、きっと当時驚かれたことでしょう。大阪へ戻る汽車の中で、居眠りする主人を見ながら、夫婦ってこんなものなのかなぁ…というあの表情。

東京物語では、成長した子供たちの、やや残酷とも言える家族光景を目の当たりにします。東京に出てきた両親に冷たく接しておきながら、母親の葬儀の直後に、遺産分けであれが欲しいこれが欲しい…。それを冷めた目で眺める役の笠智衆さんと原節子さん。

ダメです、コメントしながら作品に入り込んでしまっています(笑)。
by のり (2015-12-07 07:28) 

Cedar

◼︎のり様
ご丁寧なレス、ありがとうございます。
Cedarも原節子さんは小津、成瀬作品しか観ていません。
原さんが好きと言うより、出た映画が好きなんです。
特に『めし』と『麦秋』が好きです。
小津映画の脚本家野田高牾も『東京物語は誰でも書けるが、麦秋は、自分しか書けない脚本だ』と言ってます。
天神の森のモ231、台車がブリル76Eの高床時代ですね。

by Cedar (2015-12-07 10:28) 

Cedar

★コミックン様
★あおたけ様
★hanamura様
★あるまーき様
nice!ありがとうございます
by Cedar (2015-12-07 10:37) 

KEY坊

原節子さん、結構オッパイ大きいんですよね、この時代の女性の下着の問題かもしれませんが .. (下ネタになってすみません)
小津監督の墓参りで入替わる様にお逢いした事があります。「こんにちは〜♩」のお声と瞳はお年をめしても変わりませんでした。驚きと同時に野暮な謎が解けた気がしました。昔の美人、田中絹代さんにも会ってみたかったなぁ〜。
by KEY坊 (2015-12-07 12:05) 

Cedar

■KEY坊様
原さんとお会いになったんですか・・
鎌倉での目撃情報はたまにありましたが。
あの街もずいぶん変わってしまいましたが、久々に行ってみたくなりました。

★八犬伝様
★やまびこ3様
★モボ様
★nandenkanden様
★AKI様
★dougakunen様
★shingeki様
★モグラたたき様
★宝生富貴様
★Ujiki.oO様
★mentaiko様
nice!ありがとうございます




by Cedar (2015-12-08 00:29) 

Cedar

★ぷっぷく様
nice!ありがとうございます
by Cedar (2015-12-08 17:20) 

ひでほ

映画のカットをみせていただき、この時代に生きてみたいと思いました。レンタルビデオはあるのでしょうか?写真でしか見たことのない小田急63とかも見てみたいです。登戸の写真で中間車と先頭車がつながっています。国鉄電車ならいざしらず、めずらしいものをみせていただきました。
by ひでほ (2015-12-08 21:53) 

Cedar

■ひでほ様
この作品はどちらもレンタルDVDありますよ。『晩春』『麦秋』はアマゾンヴィデオ(プライムサービス)で無料見放題です。
東京物語は一年くらい前に400円くらいで買えました。

★nd502様
★芝浦鉄親父様
nice!ありがとうございます


by Cedar (2015-12-09 01:45) 

MONSTER ZERO

拙ブログへお越し頂きありがとうございました。
しかし、ものすごい情報量と原 節子さんや巨匠達への敬愛がひしひしと
伝わってきます!!
ホント、スゴいです。勉強になります!^^;
by MONSTER ZERO (2015-12-22 15:25) 

Cedar

■MONSTER ZERO様
映画と鉄と音楽が好きな爺が、好き勝手書いてるブログです。
鉄道が映画の展開にさまざまな役割を演じる様を伝えたいと思って、こんな記事を書いています。小津組に限らず、映画の撮影部には鉄道ファンが多いですね。監督だと山田洋次サンとかも・・・。
今後ともよろしくお願いいたします。
次回は山田五十鈴のサイレント映画『鶴八鶴次郎』の鉄シーンの予定です。
by Cedar (2015-12-22 16:23) 

Cedar

★SpeedBird様
★hideta-o様
nice!ありがとうございます

by Cedar (2015-12-22 16:26) 

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