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心に沁みる映画鉄風景(その2=東京物語) [映画・音楽]

GWに観た映画の鉄分紹介~台湾映画の次は日本映画です。
この映画について説明するまでもありませんね~(あ、お若い方はあまり知らないかも?)東京物語04JPG..JPG1)
日本映画の名匠、小津安二郎監督の作品です。

尾道に住む老夫婦が東京の子供達を訪ねる旅と、その結末。人生の無常とすれ違う人の思いを、淡々と描きます。東京物語07JPG...JPG(2)

(3)尾道の描写には、早速非電化時代の山陽線が登場します。海と山に挟まれた町並みを貨物列車が行きます。東京物語02.JPG
東京物語06JPG...JPG(4)
製作は昭和28年、戦前の暮らしと街並みが残っていた当時の東京風景がモノクロームで描かれます。

固定カメラによる情景ショットの積み重ねで、物語を紡いでいくスタイルはこの監督らしいです。
例によって映画のストーリー紹介が目的ではないので、鉄シーン(町並み)に絞って観ていただきます。

東京物語の東京は、墨田区と足立区の境目あたりが主な舞台になってるようです。

東京物語08JPG...JPG(5)
現代のランドマークはスカイツリーでしょうが、この当時は千住のおばけ煙突でした。見る角度によって1本にも4本にも見えたコレをご存知の東京っ子も、今や少ないですよね。
Cedarがガキ時分、金町の親戚に行く常磐線や京成の車内からよく見えたものです。

続いて東武堀切駅のシーン、スナップ写真のようなカットをゆっくりつなぐ小津スタイルはここでも。

(6~8)鉄的には、架線柱の独得な形が印象的です。東京物語09JPG...JPG東京物語10JPG...JPG東京物語11JPG...JPG

長男夫婦の家はこの近くの町医者です。長男は忙しく小さな子供もいて、はるばる訪ねてきた両親を気遣いつつあまり時間が取れない~ま、この辺は今でもありそうな状況でしょうか?

この映画は海外・特にヨーロッパでも評価が高く、テーマの普遍性もあってイタリア(後にアメリカ)でリメイク(っていうかパクリ)されています。

東京物語12JPG...JPG(9・10)東京物語14JPG...JPG
荒川の土手のシーンでは、長男の子供の遠景に東武と常磐線の鉄橋
わかりにくいですが、ゆっくりとトラスを抜けて行く常磐線貨物列車の後部が写っています。

次は近所で美容師をしている長女の家、都電の走る表通りからちょっと入った場所、という設定も、当時の東京を知っていると、その生活レベルを想像して納得しますね。東京物語13JPG...JPG(11)

路地の向こうにチラッと都電6000が見えているこのフレーミング~Cedarは好きです=鉄写真としては落第ですけど。

長女の家でもあまり構ってもらえず~はとバスでの東京観光は、戦死した次男の嫁が付き添うことに・・・

(12・13)
東京物語17JPG...JPG東京物語16JPG...JPG
天窓のあるはとバスのシーンでは、当時の銀座の街並みが映し出されます。

(14・15)地下鉄入口やその右手にみえる都電赤い電停標識も見えています。東京物語18JPG...JPG東京物語19JPG...JPG
都電のビューゲルごしの銀座の柳、デパートの屋上からみる東京、Cedarの記憶より古さを感じます。

東京物語01.JPG(16)

嫁が住んでいるアパート~表参道や代官山にもあった同潤会アパートって、こんなでしたね。東京物語21JPG...JPG (16)

 江東区白河にあったアパートにCedarの親戚が住んでいましたが、こういう部屋でした。東京物語22JPG...JPG(17)

東京物語2-1.JPG(18)  
その後も時間が取れない子供たちに、熱海に行かされたりした挙句、割り切れない気持ちを胸に2人が尾道へ戻る日が近付いてきます。

上野の山に2人で出かけ、疲れた足を引きずって両大師橋と思われる橋を歩くシーンも印象的です。バックには上野駅のSLドラフトが聞こえます。

東京物語2-2.JPG(19)

東京駅で夜行列車を待つシーンでは、パタパタ式の発車案内や列車別の行列など、昭和の終わりくらいまで見られた風景が登場します。急行『安芸』は後のSLブームの頃C62牽引でファンの被写体になりましたね。
東京物語2-5JPG.JPG(20)

(21・22)
東京物語2-6JPG.JPG東京物語2-7JPG.JPG

 

尾道へ戻る途中に出てくる大阪の情景。架線の向こうに大阪城を遠望するショット~(6)の東武堀切のカットと好一対です。

(23)架線柱の形から見ると国鉄ではなく、京阪ですかね?東京物語2-8JPG.JPG東京物語2-9JPG.JPG
(24)そしてこちらは宮原でしょうか?

大阪で鉄道員をしている三男のところで母は病みついてしまい、そして尾道に帰って間もなく亡くなってしまうのでした。

出かける前は2人、帰ってみたら1人=同じカメラポジションで老妻の不在を見せたりする・・・
(25・26)
東京物語ビフォー.JPG東京物語アフター.JPG

旅の前と何も変わらない尾道の景色、しかしここに帰ってきた人は・・・・
小津作品共通のテーマ「人生の無常」も、こんな静かな情景ショットの連続で描かれます。

東京物語3-7.JPG(27~29)東京物語3-8.JPG東京物語3-9.JPG

これらのショットも映画の冒頭(つまり2人で東京に行く前)では、人や船の動きのある風景として登場しています~下の線路も貨物列車が走っていましたし・・・

東京物語3-6.JPG(30)

長く連れ添った老妻の死を、庭の花が枯れたように淡々と受け入れる義父の姿と、悲しみを胸に帰京する嫁の対比~あくまで静かに描かれます。

東京物語3-10.JPG(31)
(32~35)ラストは嫁が乗った東京行き急行の走行シーンが映し出されて・・・東京物語3-4.JPG東京物語3-2.JPG東京物語3-3.JPG東京物語3-5.JPG

汽笛一声~映画は終わります。

最後まで見てくると、一見ストーリーと関係ないような街のカットが、線路が、風景までもが、登場人物の思いを写す鏡のように意味がある、感情の映像化だとわかってきます。

そしてランダムに思えるカットの長さとつながりも「感情を編集」しているのですね。

こういう手法は最近の映画には殆どなく、今の若い方には退屈でしょうが、その独特な映像感覚はやはり只者ではありません。

DVDは¥380(!)で手に入りますのでぜひ一度・・・

 


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hanamura

カンヌ映画祭が開催されましたね。
by hanamura (2013-05-16 07:13) 

のり

「東京物語」、素晴らしい映画ですね。鉄道のシーンが、ストーリーの段落のように登場するのが、とても気になっていましたが、こうして並べて見せていただきますと、なおさらその思いを強くします。鉄道が日常生活の中に溶け込んでいたことを痛感させられますね。
かなり重い内容のお話だと思うのですが、それを淡々と進めて行くカメラがなかなかすごいと思っています。
帰路の大阪でのシーンも印象的でした。鉄道員の息子さん、たしか大坂志郎さんでしたね。
大好きな映画です。
by のり (2013-05-16 07:16) 

狂電関人@昼休み

Cedarさま

小津映画、そのひとコマひとコマがジンジン胸に沁み入ります。
この世界観をどこかで電関人としてはスチールの世界で具現させたく、
昭和時代の様々なものが小津映画に凝縮されていると思います。
by 狂電関人@昼休み (2013-05-16 12:33) 

京葉帝都

当時の日本を代表する俳優、監督による作品なので、舞台と背景となる鉄道のシーンが広範囲にわたっていますね。レンタルがあれば観てみたいです。
銀座松屋の屋上から国会議事堂が見えていたとは驚きです。
線路際に洗濯物を干していますが『黄害』はどうなんでしょう。
大阪城の手前の架線柱は、城東線かと思います。京阪の架線には先端が細くなるタイプのものはありません。また位置的には玉造〜森ノ宮のように見えます。
by 京葉帝都 (2013-05-16 14:40) 

Cedar

■hanamura様
最近はカンヌでは日本映画は今ひとつですね。
小粒な作品が多くなっていますから仕方ないですが。
小津作品は受賞は無いですが、ヨーロッパでは評価高いです。
■のり様
東京物語、テーマは重いですが現代でも通じる部分があると思います。
ストーリーの段落として鉄道が登場してる、というご指摘は納得です。カメラのフレーミングの上手さも印象的です。
■狂電関人様
小津作品のようなテンポと手法、いつかまた脚光を浴びる気がしています。CGやアクションばかりが映画じゃないですから。
■京葉帝都様
大阪城手前の架線柱、Webで調べたら確かに京阪には無い形でした。ご指摘ありがとうございます。
この作品、なんと380円でDVDが手に入ります、レンタルよりお安いですよ!

★あおたけ様
★あるまーき様
★パルの大冒険様
nice!ありがとうございます
by Cedar (2013-05-16 15:51) 

はーさん

「東京物語」は睡眠誘導剤としては、大変時優れものでした。
ヨーロッパに行く、飛行機の中で、見ておりましたら、そののどかなシーン、スローテンポは眠るのにはちょうどよく、ぐっすり眠れました。
鉄道のシーンも尾道は有名でしたが、都電などもさりげなく、出ていたのですね。この都電がグリーンとクリームの塗り分けであるのが、しっくりきますね。最近、話題になった昭和の情景を売り物にした映画にも、アイボリーにえんじの帯を占めた都電が出てきますが、この塗装は晩年に塗装費をけちるために退色が少ないこの色にしたと聞いております。小生の年代には懐かしい都電はグリーンとクリームの塗り分けでなくては!!
と頑固に思っております。路地の先に顔を出している都電は6000形ではなく3000形かもしれません。北千住~水天宮の21j系統は3000形だったと覚えております。もっとも、南千住~銀座の22系統は6000形だったと思います。Cederさんのご紹介により、「東京物語」を見直しました。次に見るときは、寝ないようにせねばなりません。




by はーさん (2013-05-16 16:27) 

Tosi

三十年後にヴィム・ヴェンダースが記録映画『東京画』を日本で撮影したときには、この作品のなかで描かれていたような日本はすでにあらかた消滅してしまっていました。ヴェルナー・ヘルツォークが東京タワーの展望台かどこかでそのことについて大きな失望を表明していたはずですが、ヴェンダース自身や(たしか新宿で彼と遭遇する)クリス・マルケルはそれぞれ独自の視点でバブル前の日本の現実を記録することに誠実に取り組み、すぐれた作品を残しました。それからさらに三十年が過ぎ、クリス・マルケルも亡くなりました。こんにち、ユーロ圏では景気後退が続いていますが、日本では政権と中央銀行が実現させた過剰流動性相場を「成果」と誇り、次の大きなバブルを膨らますことに賭けているかのようにみえ、たいへん気が重くなります。
by Tosi (2013-05-16 19:28) 

Cedar

■はーさん様
確かにあのテンポ、インフライト睡眠誘導には最適ですね。
前回紹介した、恋々風塵の候監督も『初めて観たときは途中で寝ちゃった』と言ってました。
都電のシーン、北千住辺りとすれば3000だったかもしれないですね。




by Cedar (2013-05-16 19:53) 

Cedar

■Tosi様
ヴェンダースに限らず、小津の信者はヨーロッパには多いようです。一方アメリカでは彼は全くといっていいほど評価が無く、黒澤明の圧倒的名声に隠れています。
一口に欧米と言っても欧州とアメリカでは精神世界や嗜好性は全く異なりますね。ビートたけし=北野武もハリウッドでは全く受け入れられませんし。

日本もいろいろな意味でアメリカ追従から脱却した方がいいと思いますが、まあ無理ですね。

by Cedar (2013-05-16 21:05) 

フタミ

尾道、懐かしいです。
あの帰りに、どこかのホームで会いましたね(笑)
by フタミ (2013-05-16 23:02) 

Cedar

■フタミ様
コレは珍しいですね~ひょっとして初コメ?
こういう記事だと鉄以外の方も見てくれているのでしょうか・・



by Cedar (2013-05-16 23:28) 

EF510-230

はとバスといえば天窓ですよね。懐かしいです。子供の頃、一度乗りたくて親父にせがんで東京見物をしました。どこを見たかはほとんど覚えていません。何しろ目的がはとバスに乗ることでしたから。
by EF510-230 (2013-05-17 06:05) 

Cedar

■EF510-230様
60年以上の東京暮らしですが、はとバスにはまだ乗った事はありません。
by Cedar (2013-05-17 07:19) 

Cedar

★UZ様
★やまびこ3様
nice!ありがとうございます

by Cedar (2013-05-17 07:41) 

なにわ

これ、最後まっすぐ東京に帰ってたと思い込んでました。京葉帝都さんの指摘で地図を見てみますと、天守閣は南北より少し東にずれて建っているようです。そこから45度ずれて見えるとなると、ちょうど森ノ宮駅にぶち当たります。60年前は高速道路も無いですし。
ま、もう少し、この時代の架線柱を調べてきます。(と、昨夕書くつもりで寝てしまいました)


by なにわ (2013-05-17 18:38) 

Cedar

■なにわ様
映画の記憶って意外とあいまいで、順序がすっぽり入れ替わってたりします。
小津映画の印象に残るカットとしては、無人の線路や駅というのがありますね。話の句読点という感じで絶妙に入ってきます。

★suzuran6様
nice!ありがとうございます
by Cedar (2013-05-17 18:49) 

Cedar

★いっぷく様
★ぷっぷく様
★suzuran6様
nice!ありがとうございます
by Cedar (2013-05-18 06:48) 

なにわ

無茶苦茶や、東京から尾道へ帰ってるというのを逆に書いちゃいました。

いやあ、1953年の城東線って案外写真がありませんね。73系とドアぶち抜きのトレーラーばっかりだったので。

閑話休題、(29)の船着場、大林監督の「転校生」にも出てきます。あの映画には時期的に115系しか出てきませんが(なんだ、今と一緒じゃないか)。「東京物語」なのに、後年の映画やアニメーションの演出家に影響を与えたのは尾道の方なんですよ。
できれば「かみちゅ!」というアニメーションを探してみてください。

by なにわ (2013-05-18 17:08) 

Cedar

■なにわ様
大林監督の尾道3部作はみんな観ています、船着場も山腹のお寺も出てきましたね。
東京物語はイタリア映画の「みんな元気」というのの原形でもあります~マストロヤンニの主演でシチリアに住む老人が北イタリア各地に住む子供達を訪ねてほろ苦い旅をして帰ると老妻は墓の下~という映画でした。

★FTドルフィン様
nice!ありがとうございます。
by Cedar (2013-05-18 20:39) 

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